規約
第一条第一儀 戦闘は、その戦闘が行われる惑星上の生物達の根本的な問題解決方法に沿って行われる。
第一条第二儀 戦闘は公平を期すため、生物単体同士で行う事。武器またはそれに類するものの使用は一切認めない。
第一条第三儀 戦闘は一方の完全勝利を持って終結とする。

とりあえず、今必要なルールを思い出してみた。”根本的な問題解決方法”っていえば、殴り合いに決まっている。原始人だって、未来人だって最終的にはコレに違いない。
つまる所喧嘩だ。殴り合って最後に立っていた方が勝ちなのだ。
二メートル程の間を取って対峙する相手──黒崎を一瞥する。
身長は一七〇から一七五センチ、体重は八十キロと言った所か。一応クラブで活動していたのか、それなりの筋肉はついている。
問題は中身にある。信じたくねぇが、相手は宇宙人らしい。しかも、押しかけ女房型の。
もしかしたら、手を触れる事もなしに「うーやーたー」とか叫んで生木を裂く位やるかもしれないのだ。用心に超したことはない。
足を肩幅に開き、手は軽く握っている。さっきまで、俺を挑発していた時とは打って変わった冷えた眼差し。どんな技が飛び出してくるか。実のところ俺はウキウキしていた。子供が新しいオモチャを買ってもらい、箱を開ける直前の気分と言えば解って貰えるだろうか。
中学生の頃、学校の不良共に助っ人を頼まれれば謹んでお受けするといった用心棒モドキをやっていて、結構面白かった経験がある。殆どの場合助っ人を頼むのは自分の手に余る相手が出てきた時であって、そういった時の相手は間違いなしに何かの格闘技をかじっているか、高校生等の兄貴分だった。
そんな奴等を相手にする時は例外なくウキウキしていた。親父との稽古は年中顔を合わせているおかげで手の内は読めていたし(それでも躱せない時があるが)、自分より弱い奴に息巻いてもしょうがないからだ。「何が飛び出すか解らない」状況こそが、本当に楽しめるのだ。
それが、今再現されている。しかも、相手は嘘か真実かエイリアンと来ている。これで期待しない手はない。
「戦闘は徒手で行われます。どちらもよろしいですね。」
遅れてやってきた桃姉が確認を取る。事務的な声だ。こりゃ、アテにはできないな。する気もないけど。
「ご懸念には及ばぬでござる。」
ゴザル黒崎が上衣をはだけてみせたのを見て俺は、桃姉が確認を取ったのではなく黒崎を牽制した事に気付いた。「ゴザル」なんて、今時時代劇でもあまり使わない武家言葉を使うからには剣術でも習ったのかもしれない。懐刀でグサリとやられりゃ、即オダブツだ。流石は桃姉、便りになるぜ。
これでヤツの汚い手は封じられた、このケンカ俺の勝ちだぜ。
だが、黒崎が次に取った行動に俺は絶句した。
なんと、黒崎は自分の胸に親指を曲げた四指抜手を突き立てのだ。右の手刀を左胸に、左はその反対に。ずぶり、と指の付け根までめりこむ。
「ふんっ」という息と共に、嫌な音が流れた。引き戻される両手に何かを握っている。血にまみれた白く湾曲したもの。それは肋骨であった。どのように引き抜いたものか、黒崎の胸板には手刀の痕しかない。こりゃ、本当に宇宙人かもしれない、それでなきゃキジルシだ。
「ちと、短いが問題なかろう。」
両手の肋骨剣を一降りして、血を払う。
なにが問題なかろう、だ。大アリに決まってるじゃねぇか。
桃姉に抗議すると、
「自分の肉体を使っているから、武器とは認められないわ。慶介もやってみたら?」
などと応えやがった。出来るわけあるか、一瞬でもこの女を頼りになると思った自分が情けない。
「では、参る。」
情けながっている間に、黒崎が宣言した。
脚を開き、肋骨剣を持った両の手を高々と上げている。なかなか堂々とした構えだ。実用的じゃねぇがな。
「流派は何てんだい?」
何しろ宇宙人とやりあうのは生まれて初めてである。後学の為、知っておいても損はないだろう。
「二天一流。」
きっぱりとした返事が返って来た。
「はい?」
思わず聞き返してしまった。何だそりゃ?宮本武蔵じゃねえか。
大体、二天一流ってのは剣法というよりは兵法に近いものだ。その極意が五輪書なんだが、構えだって・・・・
「いええーッ!」
俺の思考を裂帛の気合が断ち切った。耳の届いたその瞬間には黒崎の身体が視界一杯に広がっている。
振り下ろされる双剣を受けてみようかという考えを、勘が全力で押しのけた。
飛びのいた俺の身体を轟音と共に玉砂利が叩く。とっさに顔面はカバーしたがムチャクチャ痛え。破砕弾か、こいつは?!
土煙の向こうに黒崎が立っていた。その足元、今まで俺がいた場所には直径一メートル近い穴がポッカリと口を開けている。
黒崎がニヤリと笑った。ブンッ、ブンッと左右の剣を時間差を入れてその場で振り下ろす。
剣が地面を叩くや、強烈な破裂音と共に無色透明の何かが溝を掘りつつ、土煙を上げて疾ってきた。
それぞれの剣先から放たれた二条の土飛沫は、一つは一直線に、一つは緩い弧を描きつつ俺に迫った。
「ちぃっ!」
傍らにあった朱塗りの柱──鳥居の支柱に向かって飛んだ。それから三角蹴りの要領で一気に反対側へ跳躍する。
着地とともに耳に飛び込んできた破壊音に振り向くと案の定、鳥居の柱は見るも無残に白い傷痕を晒していた。まるで、鮫に食いちぎられたような傷痕だ。
「日本一の剛剣を二度も躱すとは、流石にやるでござるな。」
「日本一だぁ?てめぇ、宇宙人だろうが。宇宙人が日本一たぁ、寝言を言うな。」
抗議する俺を無視して、次の攻撃が文字どおり飛んできた。
防戦一方で逃げ回っている内に、境内は大型台風直撃といった状態に陥っていた。
「逃げ回ってばかりで恥ずかしくないのかな?地球の戦士。」
威厳高な声に俺は苦しい反論した。逃げるのだって命懸けなのだ。
「うるせぇ!非常識な事しやがって。何が宮本武蔵に二天一流だ?俺は剣先から何か飛ばすような剣法なんざ聞いたこともねえぞっ。」
「これは異な事を。子供達ですら強い、強いと言っては武蔵を使って戦闘シミュレーションに興じておったでござるぞ。」
子供?戦闘シミュレーション?何を言っているんだ?
再び飛んできた無形の攻撃を躱した時、ピンと来るものがあった。
まさか・・・・・・ゲームのキャラか!?奴のセリフと史実にある宮本武蔵とは似ても似つかぬ攻撃方法を照らし合わせると、最近の対戦格闘ゲームの一つにそんなキャラがいたのが浮かび上がってくる。
「そんなモン、何処で見たんだ?」
余裕しゃくしゃくで返ってきた答えに俺は確信した。その場所にはゲームセンターがある。格闘ゲームのキャラを実在のものと信じ込んでいるに違いない。勘違いも甚だしい。
規約第一条第一義補足”戦闘はその惑星の代表となる生物の肉体で再現可能なものと限定する。”
規約に従うなら、戦闘は徒手で行われるのであって、当然優位に立つのは体系立てられた戦闘法──格闘技に長けている者となる。最初は宇宙人流の格闘技で挑んで来ると思っていたのだが、良く考えれば手が八本ある宇宙人だっているだろうから公平を期すためには地球人流の格闘技となるわけだ。それにしても、ゲームから引っ張ってくるか?
「桃姉ッ、あいつ飛び道具使ってるぞ。反則だ、反則っ。」
冗談のような大破壊が吹き荒れた境内で、身じろぎ一つしなかった審判に異議を申し立ててみた。
「自分の肉体から繰り出している攻撃なら問題はないわ。」
あー、そーかい。
「ちゃんと、相手を見てないと次が来るわよ。」
一言多いぜ。腹の中で毒づきながら、ご忠告にしたがって黒崎を見た俺は目を疑った。
痩せていた。己の身体から引き抜いた肋骨を両手に持ち、俺をねめつける黒崎の身体が二回りは小さくなっていた。ワイドショーなんかで報じられるタレントの激ヤセなんて目じゃないくらいにやつれ果てている。
一体何が起こったんだ?

抜ける官能小説
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