目が覚めたのは、夕闇が降りた頃だった。昨夜、出しすぎたのがいけなかったようだ。
しかし、体力回復は確実に行われたようで起き上がるのが困難な位に元気になっている。
うむ、絶好調。
とはいっても、このままでは不意の来客に社会的に不適切な姿をさらしてしまうことになる。となれば、静めるしかない。静めるには・・・・・・やっぱ、久美子ちゃんだよな。
目覚めの一発は何がいいかなと、ビデオを吟味しているとガンガンと叩く奴がいる。ほっときゃ諦めるだろうと無視する事にした。俺と久美子ちゃんのAVタイムを邪魔されちゃかなわない。
テープをセットしていると、無粋な音は一際高くなったがその内聞こえなくなった。
まったっく、人の都合を考えろと再生ボタンを押したとき、
「け・い・す・け~」
地の底から響くような声が背後から流れてきた。
聞き覚えのあるその声に恐る恐る振り返った俺が見たものは、「よいしょ」の掛け声と共に窓から侵入する太ももであった。
その本体が侵攻を完了した時、俺はどんな顔をしていただろうか。
「何よ?文句あるの?」
澄んだ、しかしトゲのある声がそれを物語っていた。
腰までの長い髪をかき上げ、こちらを見る眼は怒気を含みつつも美しかった。
ラベンダーカラーのボレロと黒のビュスチェが元々細いウエストをさらに細く見せており、ボレロと同色のミニスカートからはキュッと締まった足首を従えたほどよく脂肪の乗った太ももが伸びている。
そして、サングラスに咥え煙草、首にはチョーカーを巻いたOLとコンパニオンを足したような女が俺の前に立っていた。
「あぁん、いいわぁ───。」
いきなり、俺の背後でとろけるような声がした。この声は久美子ちゃん。
言うまでもなく、ビデオの再生がスタートしたのだ。
後ろ手でリモコンを操り、ビデオを停止させる。
「まぁた、久~美子ちゃ~んッ、なワケ?よく飽きないわねー。」
どこぞの三代目大泥棒の口調を真似しつつ、OLモドキが呆れた声を出した。
「しっかし、オシッコ飲んだりスカトロしたりザーメンかけられて嬉しそうにしてる変態AV女優の何処がいいのかしらね。そんなの見てたら、一般常識が欠如して、その異常な性欲の暴走で白昼堂々と年端もいかない女の子をレイプしまくってお縄になるわよ。陪審員の満場一致で市中引き回しの上、打ち首獄門さらし首ね。一族郎党街中から白い目で見られてチリジリとこの地を去って行くんだわ。親不孝の極みってやつね。少しは情けないと思わないの?この三国一の笑い者ッ。」
つるべ打ちとは正にこの事だ。しかし、なんでここまで言われにゃイカン?
「で、一体何の用なんだ?桃姉。」
息の継ぎ目に俺は割り込んだ。ほっとくといつまでつづくか解りゃしない。
「何の用~~?」
ギロリと俺を睨み、静かな声で一句一句、きっちりと発音した。こういう時はマジだ。やばいぞ。
「ま、まぁ、用があるから来たんだよな。腹を割って話会おうじゃないか。」
俺はいつでも逃げ出せる体勢を取りつつ、座布団を薦めた。来るならば右からか左からか。
俺の目の前にいる女は名を蓮葉桃耶というのだが、口は先の通り達者で、手は口よりも達者である。
おまけに酒癖、男癖、女癖(!?)が悪く、職業を考えると周囲からクレームが出ないのが不思議でしょうがない。
見た目は口の悪さに反比例しており、今ビュスチェからのぞく胸の谷間なんか久美子ちゃんにもひけを取らない豊満さを見せているから引っかかってくる男には困らない。無論、ひっかっかった男は絞るだけ絞ったらポイッである。
そのうち、後から刺されるんじゃないかと思っているのだが実現はしないだろう。何しろ、被害者・加害者の立場が逆転する可能性が百二十パーセント以上なのだ。
「・・・・・・そうね。」
おっ素直じゃない、と思った瞬間に桃姉が動いた。狭い部屋の中のどう動いたものか、瞬時に背後を取られる。
ムニュッとガキッの二つが同時に来た。
ちなみにムニュッは背中に押し当てられた胸の感触で、ガキッは首に極められたチョークスリーパーの擬音だ。
酸素の供給路を絶たれながらも、背中から伝わるムニムニ感でにやけそうになる。おまけに今は酒が入っていないようでいい香りがする。ちょっと幸せ・・・・・・なんて、言ってる場合じゃない。
「ロープ、ロープッ」
俺は残り少ない酸素を使って必死にもがいた。
簡単な技なのだが、シンプル故に完全に極った時の効果は絶大だ。仮に体重差が二十キロ以上あった場合、これを力で外すのは絶望的だ。
「そんなに縄が欲しけりゃ、久美子ちゃんに貰ったら~~ッ」
ますます締め付けが強くなった。イカン、声に青筋が入ってるぜ。
ああ、目の前が暗くなってきた。このまま俺は逝ってしまうのだろうか?女の腕の中でっていうのも悪くないが、桃姉じゃなぁ。久美子ちゃんだったら、逆に死んでられねぇんだけどな。
「この程度外せないなら、あんた、死ぬわよ。」
やけに静かな声で桃姉が言った。
それを訊いた瞬間、俺は桃姉の腕から抜け出していた。正確には、俺の頭を押さえていた手の親指を握ってもぎ離したのだ。女相手に力押しはしたくなかったがしょうがない。
「どういう意味だよ、そりゃぁ?」
我ながら冷えた声だった。昔から誹謗中傷、罵詈雑言なんてものは平気の平左なのだが、同情とか憐れむとか言った類には過敏に反応してしまう癖がある。どうにも我慢ならないのだ。
さっきの桃姉の声には「憐れみ」が入っていた。互いに黒子の数を知っているような関係でも、こればかりは受け流せない。
「大体、何で怒ってるんだ?桃姉」
「何で来なかったのよ。」
親指を揉み解しながら桃姉が唇を尖らせた。
「来なかったって・・・何処に?」
「ウチよ、おかげでアンタに決まっちゃったじゃない。」
ワケが解らなかった。俺は待ち合わせの約束なんぞした憶えがないし、俺に決まるような何かの決め事に参加した憶えもない。
「決まったって何が?」
「・・・・・・本当に知らないの?」
知らんわい。俺はうなづいた。
桃姉は俺の顔を凝視しながら眉を寄せた。結構色っぽいな。
「令状読まなかった?」
「令状?」
「一週間前には届くように手配したんだけど・・・・・・ッ?」
いきなり桃姉が部屋の隅へ歩き出した。満杯になったクズ駕籠の頂上から深緑の固まりをひょいっとつまみあげる。
ガサガサと開いた瞬間、地を這うような声が部屋に充満した。
「あんた、これ読んだんでしょうねぇ?」
「あん?ああ、小学生のイタズラか。桃姉のトコにも来たんだ?」
グシャッ。
手紙が再び握り潰された。また、来るか?!
心の中で身構える俺に、
「今日の夜にウチに来て。時間は限定しないけど、今日中に来るのよ。」
そう言うと、桃姉は出ていった。無論、玄関の方にだ。
「・・・わっかんねぇなぁ。」
俺は頭を掻きながら、昨日は俺が、先刻桃姉が握り潰した紙片を広げてうなった。
何度読んでも解らなかった。いや、書かれている内容は理解出来る。だが、理解する事と信じる事は別の問題だ。
もしかしたら、暗号になっていて重大な秘密が隠されているかもしれない。逆読みにしたり、並び替えたりと色々やってみたが、そうすると逆に全く理解できなくなってしまった。
疲れた脳細胞をボケッと休ませていると不意に桃姉に中断された事があったのを思い出した。
やにわにリモコンでビデオのスイッチを入れる。
「素敵だわァ、このチンポ・・・熱くて逞しくて・・・ねェ早く・・・久美子に入れてェェ・・・ッ」
ムッチリとしたお尻を犬のように掲げ、久美子ちゃんがおねだりをしていた。指で肉ビラを開かれたソコからは女のエキスが溢れ出していた。
俺の視界をふさぐようにして、黒い尻が久美子ちゃんのお尻に密着すると、久美子ちゃんの悲鳴に近い嬌声が上がった。
「あひィ・・・ンッ、スゴイッ、すごいわァ・・・ひィッ、太いのがゴリゴリして、久美子のオマンコめくれ返っちゃうッ・・・ッ」
カメラアングルが変わって、黒人が久美子ちゃんのお尻を後ろから抱え込んでいた。黒人のは余程デカイだろう、一突き毎に久美子ちゃんはその大きさの形容詞を卑猥に変形させて口にした。
汗と涎を飛び散らせて喘ぐ顔のなんといやらしい事。
その表情と甘い声に、頭と別の所が覚醒していくのが解る。
疲れた頭に久美子ちゃん、いいねぇ。

抜ける官能小説
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