「ああ、こいつだ。こいつですよ、センセイ。」
突然、何の苦労も知らない間の抜けた声がした。ゴザル野郎の口からだった。
その瞬間、今まで相手が複数いると勘違いした理由が解った。こいつ、一人で二人分の気を出してやがる。
信じらないが、こいつが形成する気圏の感じからすると、以前なぐり倒した大学生、黒崎の身体に本人の意識ともう1人の意識が入り込んでいるように見える。
二重人格か、何かに取り憑かれているかのどちらかだ。はて?
「その人は時間ギリギリに滑り込んできた参加者と強制融合されているのよ。」
俺の疑問に桃姉が答えてくれた。のはいいんだが全然意味が解らん。どうやら、まだ説明を聞く必要がありそうだ。
融合ってのは、取り憑かれているって事だろう。ま、相手が一人二役でも差し当たっての闘いなら問題はないだろう。手が二本に足が二本でそれ以上はないからだ。
「へへへ、ブチのめしてやるぜ。お願いしますよ、センセイ。」
黒崎プラスワンがバキバキと指を鳴らせた。最後のセリフは身体の間借人に向けたものだ。用心棒かよ。
「待ちなさい。」
桃姉の声が動きだそうとした黒崎を止めた。
「開戦は調停から24時間後よ。彼が着任してから一時間も経ってない、違反行為は認められません。」
言い放ってから小声で「受けちゃだめよ。」と俺に耳打ちする。
「あいつが認めれば、いつでもOKの筈だぜ?」
黒崎が口の端を嫌な形に吊り上げた。どうやら、ゴザルセンセイから情報を得ているらしい。センセイのゴザル口調とは打って変わった伝法な言葉でまくしたてた。
「なぁ、こっちはこの前のリターンマッチに来たんだ。受けねえってのはねぇだろ?それともこの巨乳の巫女さんにゃ絶対服従なのかい?まぁ、尻に敷きそうな女だけどよ。」
誰が状況も解らねえのに誘いに乗るか、馬鹿め。さっきは久美子ちゃんを愚弄されて思わず飛び込んじまったが、そう何度も引っかかってたまるかい。
「尻に敷かれるのが好きなんだよ。」
俺は、久美子ちゃんの形の良い桃みたいなヒップを想像しながら余裕で答えてやった。
しかし、
「おい、これに見覚えねぇか?」
黒崎が、封筒をヒラヒラさせた。
珍しくもない茶封筒に、俺は言葉を失ってしまった。
わざとらしく、ゆっくりと動く封筒に記された宛先は「有限会社アストラ12御中」とあった。さらにその横には「綾音久美子AV男優一般公募係」と続く。
俺の顔色が変わったのを確認して黒崎の野郎、自分の背後に封筒をはじき飛ばしやがった。
上手い具合に気流に乗ったのか、フワフワと元封筒は本殿の隅に漂っていく。
猛然とダッシュする俺の耳に、黒崎の小馬鹿にしたような笑いが届いた。てめぇ、憶えてろ。
ヒラヒラと舞う封筒をキャッチし、ギロリと俺は黒崎を睨んだ。奴め、ニヤニヤ笑っていやがる。
その手には、便箋がにぎられていた。慌てて、俺は手の中の封筒を確認する。やられた、空だ。
「なになに、”綾音久美子さん、僕はあなたに毎日絞り取られています。何をかと言うと、精液です。久美子さんの可愛らしい顔やGカップのバストを思い浮かべる度に僕のモノはギンギンに固くなってしまい収まりがつかなくなってしまいます。あなたに咥えてもらったり、挟んだもらったりする所を想像するだけで右手が股間に伸びて行きます・・・”って、なんだりゃ。AV女優へのファンレターかよ?オイオイいいトシして右手が恋人かよ、なさけねぇなあ。」
しみじみとした黒崎の声に、俺は仏頂面で応えた。
桃姉は「アホ」と言いたげな表情だ。
確かに馬鹿丸出しの文面だが、これは本能の赴くまま、いや戦略的なモノなのだ。先日、久美子ちゃんが出演している深夜番組で久美子ちゃん主演の新作AVに向けて男優の一般公募が始まり、それへの応募なのだ。
「皆様の久美子への熱いメッセージを聞かせて下さいね。久美子が感じてしまった方を選ばせて頂きますわ。それでは、応募の宛先はこの住所へお願いします。」
と、恥ずかしそうに頬を赤らめた久美子ちゃんに画面の中からお願いされるやいなや俺は、ペンを握っていた。そして完成したこの傍目にも馬鹿な文面は、真面目・誠実等で通常の好感度を高め、なおかつどの位久美子ちゃんとしたいか、久美子ちゃんとどんな事をしたいのかをアピールするという極めてハイクオリティなものなのだ。
中には応募というルートを省いて、「久美子ォ、やらせろよ。ウヘヘヘヘェ」などと直電する人間のカスが凝り固まったような奴がいるだろうが、俺のようにハイソなナイスガイはちゃんと段階を踏むものなのである。
そして、その苦心作を読み上げられてしまったのだ。
「最近の代議士の息子は人ン家を家捜しする趣味があるのかよ?」
俺は口をへの字にひん曲げつつ不平を言った。かなり、恥ずかしいものがある。耳が熱いぜ。
「うるせぇよ、センズリ野郎。これをコピーして下の商店街でバラまいてやろうか?」
あまりにも、情けない脅しではあるが戦況ははっきり言って不利だ。勢いに任せて書いたから、ワープロで保存なんてしていない。ついでに締め切りは今日だ。破られでもしたら確実に間に合わなくなる。危険度数マックスだ。
「解った解った。リターンマッチだろうがエキシヴィジョンマッチだろうがやってやるぜ。」
身の気圏より久美子ちゃんだ。口をへの字に曲げすぎサザエさんのアナゴ君みたいになって俺は承諾した。
「そうこなくちゃな。審判さん、聞いたかよ?これで条件成立だよな?」
歯を剥いて黒崎が桃姉に嫌味っぽく訊いた。
「・・・・・・そうね。」
無表情に肯く桃姉に向けて、黒崎が久美子ちゃんへのラブレターを丸めて放り投げた。
「終わるまで暇つぶしに読んでなよ?結構エロい事書いてるぜ。その仏頂面も治るんじゃねーか?」
あのヤロー、なんつー事を。
「さて、やるか。センセイ、少しは用心しろよ。・・・・・・承知した。参るぞ、乾殿。」
身体の主導権をバトンタッチしたのだろう、今までのボンボン口調ではなく重厚な声音が流れて来た。
「表に出な。」
流石に本殿でやりあう訳にはいかない。俺は顎をしゃくって、外に歩き出した。
歩きながら、俺は心が狂暴な色に染まっていくのを感じていた。喧嘩は嫌いではない。道場なんてやっているから滅多にはやらないが、売られればキッチリ買う性質なのだ、俺は。
この勝負を受けたときから、スイッチは切り替わっている。久美子ちゃんで一発抜くような世間一般の若者的思考から、”どう撃つ、どう受ける”という人間が本来持つ闘争主体の思考へと。
俺は、走り出したいのを抑えつつゆっくりと境内にでて、黒崎と対峙した。
さぁ、見せて貰おうじゃねえか、宇宙仕込みの技ってのを。

抜ける官能小説
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