校門からゾロゾロと生徒達が吐き出されていく。
一人で帰路を急ぐ者、友人とだべりながら帰る者、何か心配事でもあるのか浮かない顔の者、これから遊びにでも行くのか数人で談議している者達。それらを四神晃一郎はチェックしていった。
チェックと言ってもジロジロと品定めをするのではない。ほんの一瞬チラッと見るだけである。判別基準はない、殆どカンだ。今までもそうしてきた。そして、外れた事はなかった。
今、四神がいるのはバスの停留所である。道路を挟んで、校門のちょうど反対側にあるため、観察にはもってこいの場所であった。いつもは東側から帰るのではあるが、今日は人を待っていた。待っているついでの再チェックである。
三十分もすると、校門から出てくる生徒はいなくなった。時間帯と人数を考えると、四神の目前を通過した人数は全生徒数の二割ほどであろう。その中に四神のカンに触れる者はいなかった。
顔を上げて、蘭靖学園の校舎群を見上げた。高等部・中等部、それぞれの施設を合わせると数は十ほどある。この中にどれだけ、四神が敵とするものが潜んでいるか見当もつかなかった。
転校初日に校舎内を歩き回り、おおまかなチェックをした時はその数と曖昧さに驚いた。学校という人が集まる場所柄を考慮しても、一カ所に複数を確認できたのはこれが初めてであった。しかも、高等部だけの話でだ。そして、その曖昧さも初めてであった。当たりを付けた生徒をもう一度見ると、まったくカンに触れないただの生徒になっていることが度々あった。レーダーに例えるなら、敵を表す光点が現れたり消えたりしているようなものだ。
初チェック時に、女教師を輪姦していた不良達を叩きのめしたが、これはその曖昧な存在を追っていた副産物であった。
カンがくるっていなければ、それは不良達のグループに合流した筈であった。
だが、そこで消えてしまった。とりあえず、不良達を調べる意味で軽くのしたがあまりにも弱く、追っているものとは思えなかった。恐らく、四神が彼らに会うまでにその場を離れたのであろう。
曖昧さの理由は不明であった。意図的に、または無意識に存在の隠蔽をしようとしているのだろうか、全く解らなかった。だが、------関係ねぇ、ブチ殺す。
これが、四神の結論であった。相手側の状態がどうであれ、一瞬でも”敵”と判別した以上生かしておくつもりはさらさらない。不敵な、そして凄惨な笑みが四神の唇に浮かび上がった。
「あの・・・四神君?」
校門から出てきた女生徒が誰かを捜すようにキョロキョロと当たりを見回し、四神を見つけると声をかけてきた。
「何か用かな・・・佐藤さん。」
先程の怖い顔を普通の顔に急転換させる四神。未だに、感情が顔に出てしまう時がある。今の顔、見られたであろうか。
「え?・・・あ、私の名前知ってるの?」
四神に名字を呼ばれ、同じクラスの女生徒------佐藤美保が驚いた声を出す。
「名簿で一応は。で、何か用でも?」
「う、うん。秋穂・・・水端さんがね、もうちょっと待っててって。」
「まったく、人待たせといて何やってんだか。」
「あ、秋穂も先生とかにつかまっているから・・・その、すぐ来ると思うから・・・」
四神が軽く息を吐いて、一人ごちる。それが聞こえたのか、美保がしどろもどろなフォローを入れた。
軽い笑いで相槌を打つと、四神が秋穂を待つ間退屈をさせないようにするつもりか、ゆっくりではあるが様々な話をしてきた。殆どが、秋穂をネタにした話であった。
四神は、話のネタには最適な奴だと美保の話を聞きながら、秋穂の日頃の言動を思い出し納得した。
「あ、来たみたいです。」
しばらくすると、当の水端秋穂が校門から出てきた。すぐに四神経達に気付いて駆け寄ってくる。
「ごめん、待った?」
謝る秋穂に四神は「待った」と言い、美保は「ううん」と答えた。「じゃ、早速行きますか。」
「行くって何処に?人を待たせて、説明位しろ。」
「後でするわよ。美保、有り難うね。明日楽しみにしててよ。」
「うん・・・じゃぁね。」
自分のペースで進める秋穂に四神は、ヤレヤレと息をついた。

四神晃一郎は憮然とした面持ちでショッピングカートを押していた。カートの中に収まった緑色のプラスチック製のカゴには、生野菜や海鮮食品、牛、豚、鶏の各種パックなどが雑多に放り込まれている。
四神の押すカートの先には、水端秋穂が口元に手をやりながら食品の陳列棚をのぞき込んでいた。ポイポイと食品をカートに投げ込む様子は、正に手当たり次第といった感がある。
「おい、コラ」
四神が呆れ声で秋穂を呼び止めた。
「何?」
「一体どんだけ買い込みゃ気が済むんだ?」
「だーい丈夫よ、晃ちゃんに払えなんて言わないからぁ。」
秋穂が手をブンブン振って答える。
”そう言う問題ぢゃねぇ”と口から出かかった言葉を噛み殺し、四神はため息をついた。
つきながら、首を回さずに周囲を見回した。
カンに触れる気配がチクチクと感じられる。それも複数。
------てめぇらが食いてぇのは解ってるんだぜ。クソ共が。
カートの中の食品を見ながら、思わず洩れそうになる呟きを噛み殺す。
「そんなに変な顔しないでよ。」
怒ったような声に顔を上げると、秋穂が腕組みをしてのぞき込んでいる。
片眉を上げ、もう一度ため息をつく。
「で、この大荷物、誰に運ばせるつもりだ?」
「晃ちゃん。」
推考時間ゼロの返事が返ってくる。解り切った答えではあったが、漫才のようなスピードとタイミングだ。
「へいへい。」
四神は顎を突きだし、呆れた声でこれも解り切った承諾を返した。

抜ける官能小説
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