アスファルトの上、常夜灯と自動販売機の頼りない明かりが照らす空気にむっとする性臭が混ざっていた。もぅ、大分拡散してはいるがそれでもはっきりと解かる。ここで、性行為が行われたのだ。それも強烈な。
モゾモゾと白い物が動いた。桃のような丸いもの。女の尻であった。
「大分犯られたようだな、かのえ」
声は尻にかけられたかのようであった。
「はい。」
ゆっくりと、精液まみれの上半身を起こすかのえの声ははっきりしていた。先程の色惚け加減がまったく感じられない。
立ち上がった裸身からは、様々な臭いがした。汗の臭い、牡と牝の体液の臭い、アンモニアの臭い等々。
「小便までブッかけられて、相当ヤリ込まれたようだな?」
「はい、お二人共とても元気で、私数え切れない位イカせて頂きましたわ。」
艶然と笑いかけるその先から、その男が歩いてきた。
くたびれた・・・・背広もネクタイもズボンも靴もその男のまとっているものは全てくたびれていた。男自身もくたびれている。白髪の混じった頭髪が自らの脂で奇妙なヘア・スタイルを構成し、無精髭を生やした口元にはやたらと並びの悪い歯並びが収まっている。肝臓が悪いのか、はた目に悪そうな血色が夜気に触れてさらに悪く見える。会社ではリストラの対象筆頭であろう。
「若いってのはいいねぇ。」
しみじみと言いながら男がかのえの傍らに立つ。並んでみると、かのえの肉感が男の身体を圧倒していた。かのえが男の胸板を突いたなら、大きくよろめいて尻餅をつきそうである。
「全身ガキどものザーメンまみれにされてイッちまったんだな?」
右脇から手を差し入れて、右の乳房を持ち上げるように揉む。
「はい・・・・顔や胸にかけられてイッてしまいました。」
「・・・・それで?」
「アソコ・・・オマンコやアナルの中にたくさん出して頂きました。本当に凄くておなかのなかでタプタプいってるみたいです・・・。あ・・・洩れ・・・」
声が震えて、かのえの尻のすぼみから滲むように白と茶の混じった液体流れ出した。
「ふぅん、そんなに出されたんじゃ妊娠しちまうなぁ。どうする?」
外見と似てもつかない声音で男がかのえに訊く。
「そんな・・・困ります。」
「どうして?」
「・・・・それは・・・・」
「ん?」
「・・夫に知られたら・・・・」
「何言ってやがる、亭主で満足出来ねぇから男欲しさに夜中うろつくような牝犬が亭主にばれて困るわけねぇだろうが。それとも、亭主がいなきゃいけない理由でもあんのか?」
理由・・・それは世間体的なもの、経済的なもの等がある。愛情かといえばそれも怪しい。いくら”愛してる”と曰っていても、結婚して三年四年たてば変わってくる。よく「”愛”は結婚すると”情”に変わる」という人がいる。結婚前後を合わせて”愛情”というものだ。だが、かのえにはそれらに固執する理由はなかった。
いつからだろう?傍らで自分の身体を弄っている男の言うなりになるようになったのは。「疲れた」という夫の声が熟れた女の肉に欲求不満を刻み込んだ。その内に夫の出張中に男を漁るようになった。男共に声をかけ、声をかけられている内に、この男に出会ったのである。出会ったときもやはり、くたびれた姿をしていた。このような男がどんなセックスをするのか、僅かに興味があったし、一度キリと割り切って考えた。
それが、今では言うなりに路上で男達を誘い犯されるようになっている。高級娼婦のように相手を選り好みできたのが、当たりかまわずにヤリまくる色情狂にされてしまった。しかし、どうしてであろうか?「俺はサドッ気はねぇから言葉でいたぶっても面白くねぇんだよな。ま、いつものやるか。」
男の親指と人差し指がかのえの襟首を掴んだ瞬間、かのえの身体が痙攣した。
胸と腰を突き出すように爪先立ちに身体が反り返る。
右目がトロンと霞がかかったようになる。左目はもとのままだ。
右の乳房が熱を帯びて張り出し、乳首が固く尖る。左の乳房は乳首も変化はない。
性器が、子宮が熱い官能に侵食された。右側だけ。
これよ。
思考が働く左側でかのえは思った。
このスゴイのがいいのっ!快楽と平常を分けている身体の正中線の部分がどうしようもなくもどかかった。出来ることなら身体を縦に切り離し、それを思う存分掻いてみたかった。
右半身の快楽はゆっくりとだが天井知らずであった・上の、さらに上の快楽が生じている。神経を直接なぶられているようである。
・・・あ″・・・が・・・い″い″ぃぃぃ・・・・・喘ぎの声も出ない。声帯も右半分が快感で麻痺しているのだ。
「もぅ、その辺で止めないとそのヒト壊れちゃいますよ、相良さん。」
鈴のような声が闇に涌いた。
男・・・相良は驚きも、声に振り返りもしない。
「ともえか、久しぶりだな?」
ともえと呼ばれた少年が相良の前にたった。
眉目秀麗という言葉がある。顔かたち・みめがすぐれて麗しい事を言う。
ともえの貌は言葉の意味を地でいっていた。歳は十三、四といったところであろうか。ともすれば少女にも見れる中性的な色気を持っている。ほんのりと桜色の唇にはあるかなしかの微笑が浮かんでいる。意図してやっているわけではなく、自然体としてそうなっているのだ。
「あまりヤリ過ぎると、壊れちゃいますよ」
もう一度、ともえが同じ事を言う。
「もぅ、食い時なんでな。いいだろうよ。」
「それにしても、ゲテモノ嗜好は相変わらずですね。毒物を好き好んで食べるのは相良さん位ですよ。」
「あんまり無添加ってのはちょっとな。それにこっちのほうがエグみがあって味がいいんだ。」
どこかの美食家のような事を言う相良。それを聞くともえはやはり微笑を口元に浮かべている。
「それはそうと、一週間も何処に行ってたんだ?」
「”中央”に行っていました。」
「ふうん、で、見つかったのかい?」
相良の問いにともえが、はにかむような笑いを見せる。
「はい、ようやく僕の運命のヒトが見つかりました。」
「ほぅっ!」
相良のくたびれた血色の悪い顔に喜色が浮かんだ。ともえにとって嬉しい事が我が事のように感じられるようだ。しかし、快楽の半身を痙攣させる裸女を抱え、輝くばかりの美少年と向かい合って喜ぶ血色の悪いくたびれた中年というのも不気味なものがある。
「見つかったって事は、行くんだな?」
「はい。それが、僕の願いでしたから。」
「そうか、寂しくなるな。」
「僕もです。」
状況に全くそぐわない、しんみりしたムードが流れ出した。
「相良さんに教えて頂いた事は無駄にしないつもりです。生き方、闘い方、それに・・・・愛し方も。」
「選別の代わりっちゃなんだが、卒業試験とでもイクか?」
「喜んで。」
相良の言葉にともえはいつもの微笑をかすかに赤らめ、艶っぽく答えた。

抜ける官能小説
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