プールサイドに生徒が男女に別れて座っている。人数は各十五人。彼ら、彼女らの間からヒソヒソと声が聞こえる。「新しい先生かな?」大体このような意味の声であった。
「な~に言ってんのよ、キミ達は。」
生徒達の前に立った水泳部顧問・沢木美幸は腰に手をやり、最前列の生徒を覗き込むように言う。覗き込まれた生徒は急接近した美幸の顔と胸と生肌を見せる肩を感じて顔に朱を走らせた。
そんな事はお構いなしに美幸が続ける。
「このお方こそ、キミ達に国語を教えてくださっている雛村杏子先生であらせられる。ひかえおろ~。」
水戸黄門の助さんのような口調でとなりで恥ずかしげに立つ杏子を紹介した。
「そんな変な言い方しなくても・・・」
「エエ~~っ?!」
恐れ多く紹介されてしまった杏子が、何か言おうとしたが生徒達の声にかき消されてしまった。
生徒の声は思いっきりの感嘆符と疑問符に彩られている。
------そんなに違って見えるのかしら。
どよどよしざわめきを聞きながら、杏子は今の自分の姿を思い描いた。
普段かけている眼鏡は当然外している。眼鏡を外すと見えなくなる程に度が悪いわけではないので問題はない。
いつも胸の辺りで揺れている髪の先端は、束ねられスイムキャップの中に納まっている。
競泳用水着と同色のウインドブレーカーを羽織ってはいるが、前を閉めていないため水着を雄大に盛り上げる胸の膨らみがしっかりと拝むことができる。
ウインドブレーカーの裾からニョッキリと生え出ている太股は美幸程ではないがスラリと伸び、その付け根の鋭い角度のハイレグカットが恥丘を浮び上らせている。
------見られてる?チリチリとした視線を杏子は感じ取った。女子からは好奇心、男子からは好奇心に興奮の入り交じった視線が杏子の全身を射抜いていた。
顔・胸・脚・股間と各部位に視線が集中する。
「そっ、それでは出席を取ります。」
生徒の視線を感じた時から、速くなった鼓動を押さえるように杏子は努めて大きな声を出した。
出席を取るあいだは、出席簿で胸が隠れる。当然、視線は減るものだと杏子は思っていたが、A4判のボール紙の左右から除く脇乳を見ようとかえって鋭くなっていた。
------そんなに見たいの?生徒の名前を呼ぶ声がほんの少し震える。出席簿や水着を透視するかのような視線を送ってきてるのは男子生徒である。女子は最初の驚きから覚めて、杏子と美幸を教師として視界に収めているだけだ。
杏子と美幸の間を行ったり来たりしている男子の視線の意味は解る。思春期に入り異性を意識しはじめた頃に、女性的魅力を十分過ぎるほど備えた女教師が目の前に立ったのならば、ある種の感情を込めて見るなという方がおかしい。
少年漫画誌の巻頭を水着姿のモデルが毎週のように飾っている最近では女の身体的魅力が何処にあるかなど、小学生ですら解るのだから。
焦げるような視線と速くなる鼓動が胸の先端に集中した時、乳首が固くなっていくのが解った。
------やだ?!どうして?!あと、三人も名前を呼べば出席確認は終わってしまう。出席簿を胸から離した時、乳首が立っているのが生徒達に知れたら・・・意識すれば、そのぶんだけ先端から乳房全体に痺れにも似たモノが広がり、乳首がさらに固くなっていく。
「渡辺里美さん。」「はいっ」
最後の生徒を呼び、返事がかえってくる。
------あんなにじっと見ているのだもの、絶対解っちゃうわ・・・冷静に考えれば、出席簿を取って先端が尖った胸を見せる必要など全くない事に思い当たる筈であるが、男子生徒の視線に動揺し興奮してしまった杏子の胸には、”見せなくてはならない”という妙な義務感が沸き上がっていた。
------見たいの?見たいんでしょ?そんなにじっと見つめて・・・でも・・・全く必然性のない葛藤が生まれ、ジリジリと出席簿が下がり始めた時、「ハーイ、みんな両手間隔で広がって~」
美幸の声が流れた。その声に杏子がハッとする。
少しの間固まっていた杏子だが美幸に急かされ、位置に就く。
「いち、にぃ、さん・・・・」
美幸の張りのある声で準備運動が始まった。

「いや~、まいちゃったなぁー。」
授業終了後、生徒達が更衣室から出ていったのを確認してシャワーを浴びている最中に、美幸があまりまいっていない口調で口を開いた。
「何がまいったんですか?」
「何がって、そりゃもー男の視線全部、雛村先生に奪われちゃったのがね~。」
ショートカットの髪を手ですきながら美幸は杏子に眼をやる。
ブルーの競泳用水着を縁取っている白のラインが胸の辺りで大きく歪んでいる。もともときつくパンパンに膨らんでいたそこは水を吸ってさらに乳房の輪郭をはっきりと現していた。豊かなバストに反比例してウエストは締まっており、ヒップはそれに続く太ももへのラインの美しさを作り上げていた。
白い肌が赤みを帯びてピンク色に染まっている。それが、水泳による体温の上昇ではないことはすぐに解る。
「男の子に視姦されて感じちゃった?」
いきなり、肩越しに言われて杏子の肩はビクンと跳ね上がった。驚いたのと、本音を突かれたからだ。
「何言ってるんですかっ」
胸の動機が激しくなる。
------~~!!反射的に振り向くとそこには美幸の顔があった。
唇の端をわずかに曲げ、自分を凝視しているその表情はまるで猫のようだ。美幸の釣り眼気味の眼で見られると、心の中を覗かれているような気がした。
------そんなの解らない・・・・でも・・・嬉しかった・・・少しだけ・・・大学に在学中、杏子は数人の男と付き合っていた。同時にではなく、順繰りにである。一方的に別れ話を持ち出されたり、自然消滅したりすると違う男が声をかけてきた。そして、一通りつきあうと切れる。そして、また次の男が声をかけてくる。
尻軽というワケでも多情というワケでもない。シチュエーションが良いのだ。どちらかと言えば、思い込むタイプである杏子は切れたことを認識するとまず落ち込む。そこに言い寄ってくるパターンが多い。受け身である事が多いため、似たような状況で落とされている事になかなか気づかなかった。
最初に気付いたのは、切れてしまう時機である。身体を合わせ一通りプレイをしてから切れる。
タチの悪い一見さんのようなものだ。
基本的に杏子の重たげに揺れる双乳が狙いのようであった。目的を達成すれば、すぐに離れる------。
それが解ってから極力身体の線が出ない服を着るようになった。そうすると、今まで電車やバス、街中で感じられた他人の視線が激減した。そんなものか、と杏子は自分に対する評価を自嘲気味に悟った。
それが、中学生の視線を受けて嬉しいと思っている。正確には、今肩越しに自分を覗き込んでいる沢木美幸に勝って優越感を感じているのだ。
美幸の言うとおり、授業時間中男子生徒の視線は殆ど杏子に集まっていた。ムードメーカー的な美幸は生徒にウケがよく信頼も厚い。同性として見ても、魅力的である。そんな美幸からたとえ一時の好奇心からでも同じ立場で視線を奪った事と、美幸自身からの評価で小さな優越感が生まれたのだ。
その優越感と過去の記憶が杏子の意識の外で結びつき、性的興奮を呼び起こしている事に杏子自身はまだ気付いていない。

「恥ずかしくて・・・。みんな、珍しそうに見るから・・」
「そりゃぁ、こんな巨乳を生で見るのは珍しいもの。」
親父っぽいいつもの口調で美幸が言う。年中この口調でいれば単なる馬鹿かお調子者であるが、締める時にはピシッと締めているので、「話しやすくて頼りがいがある」という評価に結びついている。
「こーんなに、ナイスなバディをどうして隠すんです?」
「沢木先生みたく奇麗じゃないですし・・・、私、ただ大きいだけですし、眼鏡かけてるし・・・」
あわてる杏子の訳の解らない言い訳に美幸が突っ込む。
「眼鏡っ娘の巨乳なんて、一部の人達が、こりゃ堪りませんなぁ~って喜びますよ~。」
親父口調の攻撃で堪らないのは杏子の方であった。
「それに、今更隠してももぅ遅いと思うけど。」
「??」
「子供のネットワークって思ったより伝達が速いんですよ。」
月曜日に美幸の言葉の意味を杏子は知るのであるが今はピンとも来なかった。
 月曜日の最初の授業で、先週の授業内容を確認しようとした杏子に男子生徒の一人が大声で訊いた。
「せんせー、爆乳って本当ですかー?」
一瞬クラス中の視線が男子生徒に集まってから高速で杏子に集中する。
「な、何を・・・」
今のクラスは先週、水泳に出たクラスではない。日曜の内に伝わったようである。
授業終了後、廊下を歩いている最中にも同じようなことを聞きにくる生徒がいた。
その度にそれに便乗した視線が集中する。最もチラチラと胸元を伺う視線は杏子自身も感じていたのだが、質問されると一気に顕在化する。「見たい!」と意思表示をしているようであった。
時には女子生徒から「眼鏡を外して見て」とお願いされた時もあった。意味が解らず、外してみると「漫画みたい」と喜んで行ってしまった。
大体、杏子はあたりさわりのない答えで躱し、あまり反応しないようにした。好奇心からの行動だろうから、すぐに興味が他に移ると考えたのだ。
たしかに、それは当たっていたが一度認識された事実、”雛村先生は実は巨乳”という認識は消えなかった。
そして、職員室で体育教師が困ったようなニヤけたような表情を浮かべ杏子のデスクの傍らに立った。
「どうしました?」
「いえ、今日受け持ちのクラスで水泳があったのですが、男子が雛村先生はどうしたって騒ぐんですよ。」
まいったまいったと杏子を見下ろす体育教師の視線は杏子の顔ではなく、ブラウスを押し上げている胸に注がれていた。
「あれは臨時だったんだと言ってもうるさくて。今度、機会があったらお願いしますよ。」
笑いながら言っているが、視線が「俺も見たい」と強烈に語っていた。
体育教師が去った後、杏子は胸元を押さえ小さくため息をつく。大体予想はしていたが、やはり視線が痛かった。成人男性の視線は好奇心よりも欲望の率が高い。生徒間の噂を聞いた教師はその内容から杏子の服の下を想像する。そして、その後も造る。裸に剥いたその後をだ。何名かの教師は確実に杏子を欲望の対象としてとらえ始めた。
そして、杏子本人は見られる事からくる小さな優越感が身体の隅にある種の感情を燻らせている事に少なからず気付いていた。

抜ける官能小説
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