「さて」
座り込んで煙草を吹かしていた親父連が立ち上がった。インターバルをおいて回復したのだろう。素っ裸で煙草をくわえ、股間を熱くたぎらせる親父達の姿は何か滑稽で微笑ましいものがある。
若手二人が離れ、三人の舌と手が遼子の肌を這い回っていると戸田が近づいてきた。
「おっ、君もヤルかね?」
「ええ、みなさんのを見ていましたら負けてられなくなりましたよ」
親父特有の好色な笑いが上がる。
「おおっ、凄いぞこの締まり。あんなにヤリまくったのになんて締まりだ。それに吸い込んでくるぞ。オオッオオッ!」
男達の歓喜の叫びが街の灯火にライトアップされた廃虚に響き渡った。
 うすぼんやりとした闇の中で、小手川遼子はコンクリの柱を背にしていた。眼は閉じ眠っているかのようである。
全身に生乾きの精液がべったりと広がり異臭を放っている。
周りに戸田達は見えない。全裸の肢体を投げ出している様はさんざん弄ばれ打ち捨てられた人形のようであった。
しかし、その顔には見るものが微笑みたくなるだろう満足気な笑みが浮かんでいる。
その閉じた眼がカッと開かれた。
視線の先から足音が聞こえてくる。足音は故意に忍ばせているわけでもないのに低く小さい。小さく砂利をとばして、足音の主が遼子の前に立ち止まった。
「食休み中に悪いが訊きたい事がある。」
寂を含んでいるが若い声が流れ出た。歳は高校生程だろうか。だがその男からは歳にそぐわないものが立ち上っている。殺気だ。殺気が陽炎のようにユラユラと立ち昇っているのだ。
「何が訊きたいの?坊や。」
遼子が赤い唇を吊り上げ聞き返した。その表情・口調からは先程、同じ場所で頬けた顔でよがりながら精液を乞うた牝の姿は想像できない。
「ふふっ、おねえさんとシタイの?」
立ち上がり指をねぶりながらもその眼は男を爛々と射抜いていた。
眼と声でマゾ気のある男ならばイケそうな程の迫力がある。
「”中央”は何処にある?」
男の問いに遼子の周囲にある空気が硬質化した。
「坊やね?最近私たちに噛み付いてきてるというのは?」
「六人もいなくなって騒がれないのか?」
遼子の問いを無視して、男が訊く。
「大丈夫よ。会社のガンは早期発見早期治療が鉄則なの。社長公認だし、変わりは造るから。残さず吸い取らせて貰ったから今すぐでもいいわ。」
言葉の内容を男はどう解釈したか。「吸い込まれる」と歓喜していたサラリーマンの言葉は遼子の具合を言ったのではなく、実際の事を言っていたのかもしれない。
「社長に訊いた方がよさそうだな。」
「無理よ。ぼうやはオネエさんが食べてあげるんだから。ね?」
普通なら、「お願いします!」とズボンとパンツを下ろす者が行列を作りそうな言葉であるが、状況が状況である。全く別の意味を持っていると解釈せねばなるまい。
髪を後ろ手でかき上げ、腰をひねる。ヌードモデルのようなポーズを取って遼子は艶然と笑った。
「ねぇ、見て」
乳をブルンと揺らし、脚を大きく開く。消えかける街の明かりが逆光となりヌードダンサーのようである。
------ブリュッ遼子の股間から音がした。白い粘液が大量に脚の間に溜まって行く。
ブリュ、ビチャビチャ、ブリュリュ・・・排泄の快感にわななく美貌を男は見ていなかった。代わりに白く広がる粘い海を見ている。
そこにビチビチと蠢くものがあった。全部で六つ。歪んだオタマジャクシのようなものが粘液にまみれのたうっている。知識がある者が見たならそれが胎児の初期段階と見抜いただろう。
ビクンと胎児が跳ね上がった。見る見るその容積が膨れ上がっていく。エラが消え、手足が生えていく。成長過程を猛烈なスピードでなぞっていく。五秒とかからず胎児は出産直後の赤ん坊と同じに成長した。
成長は止まらず、さらにスピードアップする。またも五秒ほどで赤ん坊は成人した。そして、そこから変化が現われた。またも急速に変化するものとゆったりと変化するものに。元の年齢までの成長を完了し、粘液にまみれながら六つの人体が立ち上がる。
先刻、遼子を思う様陵辱した戸田達が全裸でそこにたたずんでいた。
”代わりを造る”というのはこのことであろうか。男を見るサラリーマン達の眼には意志の光はなく、人形のようであった。
「ふぅ」と怪奇な出産を終えた遼子が息をつく。
「さっ、やっちゃいなさい。」
遼子の号令一箇、サラリーマン達が動き出した。猿のような動きで男に飛び掛かった。
歯をむき出し飛び掛かる二人の新人サラリーマンの肘と正拳を叩き込む。後ろから襲う定年間近の係長を回し蹴りで吹き飛ばすと、左から来る部長の腕を逆技で引き込み、右の課長を巻き込んで地べたに叩き付ける。頭上から降りかかる戸田の蹴りを半身だけで躱し、着地したその顔面に裏拳を見舞った。
「?!」
瞬時に六人を叩きのめした男の顔に驚きの色が走った。
敵の身体があまりにも軽かったからだ。そして、あまりにも脆かった。どれもが、穴の開いた風船のように殴り飛ばした方向に飛んでゆき、その中身をぶちまけた。内臓ではなく半固形のゼリーのようなものが、柱や天井・床や置き捨てられた廃材に飛び散り、ブルブルとその身を振るわせた。
「強いわねぇ、坊や」
遼子の声が闇に流れた。男の視界にその姿はない。戸田達が粉砕されたその一瞬の間に何処かの陰に潜んだようである。
何にか空を裂いて飛んだ。男の左手が縦に振られ、飛来した親指大のそれは二つに分断され地に落ちた。落ちたそれは粘く潰れる。
飛んできた方向には誰もいない。サラリーマンのなれの果てがブヨブヨと転がっているだけである。
男は両手のナイフを緩く構えた。飛来物を両断したナイフは刃渡り二十センチ程で、肉厚の刃は鉈を思わせる。逆手に握られたそれは男の牙のようであった。
「反射神経もいいみたいねぇ。次はもっと速いわよ。」
何処からともなく流れる遼子の声は楽しげであった。
男が跳んだ。跳ぶと同時に今いた所の床に無数の穿孔が穿たれる。
大きさはパチンコ玉程。
男は止まらず闇の中を疾りだした。その後を正確に射手なき弾丸が追いかける。遼子の言葉通りナイフで分断したモノより小さく速い。
前のものが秒速百四十から百五十キロメートル、プロ野球選手の投球並みであったのに対し、今のは二百五十から三百はあるだろう。
プロテニスプレーヤーのサーブ並みである。
男の疾走は止まらず、廃材の山に向いている。遼子の声からあたりをつけていた場所であった。二度目攻撃から三秒ほどの時間でそこに到達する。
ダンッと廃材の一つに脚をかけ、勢いを殺さぬ内に飛び上がった。
空中で回転し、天井に着地する。
一秒にも満たぬ時間の中、天地が逆転した世界で男は遼子を捕らえた。
男の走りにも劣らぬ速さで陰から陰へ移る姿を。
遼子の唇が尖っている。男の足が天井を蹴ると、天井に付着したサラリーマンの残骸が震え、男がいた天井が砕けた。
「凄いわ、ぼうや。」
攻撃が止み、再び遼子の声が流れた。どうやら、攻撃としゃべりは同時に行えないようだ。
「あなたホントに人間?」
端から聞くとかなりボケた質問ではあるが、状況的には正しい質問とも取れる。最も、訊いている方がそうであるか別の問題ではあるが。
男は無言で立ち上がった。天井からの索敵で遼子の攻撃の正体はほぼ掴んでいる。遼子が放つ弾丸は液体であった。つばを吐くが如くそれを高速で行っているのだ。速さや弾数はモチロン人間の域ではない。そして、弾丸の材料は色や粘度から精液と判断した。サラリーマン共にたっぷりと飲まされたやつである。そして、それを周囲にぶち撒かれたゼリー状の残骸を使って反射というか弾のベクトルを変え射撃していたのだ。
「次でラストよ。最高速でいくわ。」
遼子の声と共にゼリーの結界が全て振るえるのを男は感じた。前後左右、頭上のあらゆる角度から一斉に米粒大の精液が襲い掛かる。
速度は?高速ライフル弾のそれだ。
男が地を蹴る。左のナイフで一閃で前方からくる液弾を弾き飛ばす。
機関砲の掃射にも似た衝撃で床に穴が空き、コンクリの破片が舞う。
男の前方には柱があった。一辺が約1.5メートルの鉄筋入りの柱である。そのお陰で前方からの弾幕が薄く、ナイフで払えたのだ。そして、その柱の陰に遼子がいる。移動する気配はない。
柱を回り来んで攻撃している暇はなかった。直線の移動ならば躱せる弾も他の動きが加われば追いつかれる。
男の右手が上がった。
雄叫びと共に風がうなった。火花が闇を切り裂き走る。右手の刃が纏う衝撃波が後方からの液弾を霧消させた時、初めて”ドンッ”という音がした。音が動作にやっと追いついたのだ。
ナイフを振り抜いた男の背後で苦鳴が上がった。紛れもなくそれは小手川遼子のものである。液弾の追撃がない事から、柱に向かっての攻撃がかなりのダメージを与えたようだ。
振り向いた男の眼に微妙に歪んだ柱が写った。へたくそな差し木のような感がある。
鉄筋コンクリートの柱は見事に分断されていた。コンクリと鉄骨を切り取った刃の厚み分だけ下に落ち、歪みを発生させている。切断面はひどく滑らかだった。切り込む刃が生み出す摩擦熱で溶けたのだ。そして刃の長さ以上の灼熱の剣をもって柱を断ち切った。大容量のレーザー並みである。そして、その熱と衝撃を利用して背後からの液弾を処分したのだ。
その、人の領域を超えた技の代償だろうか男の右手はパンパンに膨れ上がりブルブルと震えている。握ったナイフは今にも取り落としそうだ。今この手で殴られても、小学生のパンチの方がずっと効くだろう。
しかし、そのまま柱の裏手に回る。果して、そこには小手川遼子が倒れていた。右肩口から左脇に向かって朱線が走っている。遼子の眼は死人のそれだ。
しかし、男の口から発せられた言葉は勝利こ宣言ではなかった。
「まだやるんだろう?クソヤロウ」
器官を破壊しても斃せない。生命そのものを屠らなくては滅ぼせない事は今までの戦いで嫌という程思い知らされている。
今回はどうだろうか。
「用心深いのね、坊や」
跳ね起きた遼子の口調からはダメージは感じられなかった。
「ごほうびをあげるわ。」
次の瞬間、男の視界がサーモンピンクに染まった。突如として降りかかった薄膜が男を包み込んだのだ。そして、膜の端は遼子のヴァギナに吸い込まれていた。
「とっても気持ちいいでしょ?私の子宮。」
遼子の言葉通り、ピンクの薄膜内は言いようのない心地よさに包まれていた。本質的な快感。この中でなら誰しも膝を抱えうずくまって眠りに就くであろう。胎児のように。そして、戸田達もそれにならったのだ。
「うふふ、どう?ママに抱かれてるみたいでしょう」
勝利の確信に満ちて妖艶に笑う遼子の顔はすぐに驚きと苦痛に歪んだ。
子宮膜から二本の牙が突き出ていた。
牙が振られ、消し飛ぶ粘膜の向こうから怒りと憎悪に燃える眼が遼子を睨めつけている。
子宮を破壊された痛みも忘れて遼子が息を飲む。
巨大な二本の牙を煌かせながらゆっくりと歩み寄る野獣に遼子は初めて恐怖の叫びを上げた。

抜ける官能小説
inserted by FC2 system