汗でブラウスが張りついた胸元を隠すように、雛村杏子は教室を後にした。
大分納まってはいるが、「雛村先生は凄い巨乳」という噂の後遺症はしっかりと残っていた。授業中に突き刺さる視線がその証拠だ。ゆさゆさと重たげに揺れるその双乳を透視せんと、テスト直前の悪あがき以上の集中力を視線に込めて杏子を視姦する。
生徒達に背を向け黒板にチョークを叩き付けている最中の目標はタイトスカートを盛り上げる尻に変わる。一度、認識されるとあらゆる部位が視姦の対象になった。
中学生という思春期の中にある生徒にとって、杏子の肢体は興味の対象として申し分ない。噂を聞いて、視線を向ければ確かに服の上からでも解る隆起がフルフルと息づいている。普段は目立たないだけに新鮮な驚きを伴って男子は幼い劣情を、女子は憧憬と僅かな嫉妬の視線で杏子のそこを貫いた。熱心な者は視線を広角度に展開し、様々な部位にロック・オンする。豊かに張り出した尻やスカートから覗かせその先にあるものを連想させる太モモ、流れるような黒髪を従えるたおやかな美貌に改めて驚きを交えた視線を放った。
特に、杏子の貌への視線は他の部位とは異なった驚きの感情が含まれていた。
思春期に入り、これまでとは違う自己主張を始めた生徒達は同じく自らを掲示しないものには注意を払わない。普通に教務をこなすだけの教師への認識は”先生”という十把一絡の認識しかしないのだ。無論、杏子も”先生”の中に入っていた。だからこそ、誰も杏子の美しい顔立ちに気付かなかったのである。清楚なその美貌に視線を向けた者全てが素直に見惚れた。そして、淡い恋慕の情を抱く者、さらなる劣情を抱くもの、様々な感情が視線を通して杏子を貫いていった。共通しているのは、”先生”から”杏子先生”という個人として杏子を認識したことであろうか。
職員室のドアをくぐり、自分のデスクに教材を置いた時、しまったと杏子は思った。教室以上の視線を感じたからだ。
更衣室よりも職員室は手前にある。先に手軽になってから着替えようとした自分の横着を杏子は胸の内で罵った。
汗をかいた胸元にブラウスと共に強烈な視線が張り付く。数は教室よりも圧倒的に少ないが、込められた劣情や欲望は数倍濃い。
教室ならば視線を辿ってみると耳まで真っ赤にしてうつむく生徒もいるのだが、ここ職員室では辿った先には男性教員のぎらつく双眸があるばかりである。杏子は足早に職員室を出る。デスクから出入り口までの短い距離がタールの様な粘い視線で絡まれ、思いのほか遠く感じられた。
 校舎一棟に対する教員の数に反比例して更衣室はゆったりしている。基本的に生徒数・教員数が中等部の倍近くある高等部の校舎と同じ造りだからだ。
更衣室に居並ぶロッカーの自分用のドアを開けると、スチール製の扉の裏にぶら下げた小さな鏡に自分の姿が写った。
ブラウスを脱いでブラジャー姿の杏子の肌は上気して桜色に染まっている。
------まるで発情してるみたい・・・各教室にはエアコンが設備されているが、よほどの暑さでない限り冷房の許可は降りない。今日の気温28度ではどうひっくり返っても駄目である。
夏の28度はそれほどの感があるが、風がなく教室に三十人の生徒と教師一人という数が入ると状況が少々違ってくる。午前の授業が終る頃にはべっとりと汗が出ていた。化粧は薄い方------濃いと生徒の受けが非常の悪くなるため------なので流れる心配はなかったが、不快指数は100を超えている。
タオルで汗を拭き取って一息つく。
------そんなに見たいの?これが・・・鏡の中で息づくブラに包まれて、尚もはちきれんばかりに主張をする乳肉を見ていると、授業中胸に張り付く視線が思い出された。
舐るように絡み付く視線。彼らの妄想の中で杏子はどのような嬌態を演じているのだろうか。生徒の腰に熱い太ももを巻き付け、乳房を打ち振るいながら喘いでいるのだろうか。それとも自慢の巨乳で挟み、若い精液を絞り採ろうとしているのだろうか。今日日の中学生の性知識は、大人とそう変わらないだろう。
二の腕で胸を挟み込むようにすると、むちっとした肉の谷間が生まれた。
------触りたい?いいわ・・・好きにして・・・切なげに閉じた瞼がピクンと振るえる。少しづつ、ほんの少しづつではあるが杏子の心に何かが入り込んでいた。それは、形のあるものではなく知らぬうちに全体に染み渡るガスのようなものであった。
熱い視線を送る生徒が、教師が杏子の振るえる乳房に手を伸ばし------そして、揉みほぐした。
「------きゃぁッ!」
小さな鏡には、悲鳴を上げる杏子とその豊かな乳肉を揉みまくるしなやかな手が写っている。
「さ、沢木先生ッ!?」
肩越しに後ろを見やる杏子の視界に先程の杏子同様に恍惚の表情をした英語教師・沢木美幸が飛び込んできた。
「あ~、いいわ、この感触・・・たまんないッ」
「何してるんですかっ?!」
瞬間移動にも似た速さで飛びずさった杏子が口を大にしてわめく。
「何って・・・ナルシー入っちゃってる杏子先生のオ・テ・ツ・ダ・イ」
つり眼気味の猫の様な眼を細めて美幸が言う。
美幸の言葉に杏子は頭に血が昇るのを強烈に感じた。そんな風に見えていたのかと恥ずかしくなる。見られる事を思い出し妄想していたのがバレたかと思った。
「杏子先生って・・・良くなったよね~。」
「良くなった?」
美幸の言葉を杏子がオウム返しに訊く。
「うん、腰のラインがね。胸が大きいから余計にいいのよ。男共に見られて引き締まった?」
何時の間にかにじり寄った美幸が指先でつつっと杏子の腰のラインにそって撫でてゆく。
「あッ・・・」
杏子が小さく声を漏らした。豊かな胸によってより細く見える腰から這い上がってゆく指の動きは例えようがなかった。
ゾクゾクと背筋に痺れが走る。
「みんな・・・ね。杏子先生の素敵なオッパイを触りたがっているのよ・・・こんな風に。」
女性特有の心得た優しい動きで美幸の掌が杏子の肌を滑っていく。ブラを割って柔らかな肉球を覆った時、不意に力が入った。
「んふッ!」
「痛かった?あんまり、触り心地がいいから・・・。それとも・・・感じちゃった?」
耳朶に暖かいぬめりを感じると、杏子の唇はわななく事しかできなくなってしまう。それを猫のような眼で満足げに眺め美幸はつっと離れた。
「いやぁ、このプリプリのオッパイがタマランねぇ。」
いつもの親父かかった美幸の言葉に、杏子の霞がかかった意識が覚醒する。
はずれかかったブラを押さえて俯いた。
「早く汗ふかないと風邪ひいちゃうわよ、拭いたげよっか?」
美幸の声に杏子の身体がビンッと跳ね上がる。その顔は上気していた。
「けけ結構ですっ。」
おたおたしながら身体にタオルを当てる。実際の所、美幸が乱入してくる前に拭いていたので汗は殆どない。それでも、美幸が触れたいった部分は熱く火照っていた。
動機がなかなか納まらない。妙な事に二個所で動機がする。
「あッ・・・」
「どうしたの?」
「あ・・・いえ、何でもないです。沢木先生はどうしてここに?」
流石に乳首が勃ってしまったとは言えず、話題を逸らす。
「あたしも着替え。今日は暑いし、ムシムシしてるし最低ねー。」
そう言うと、美幸はタンクトップの胸元を手で引っ張る。杏子程ではないが形良く張り出す胸の谷間に汗が浮いていた。
「沢木先生・・・それ・・・」
「ん?ああ、暑くてね~」
美幸はブラジャーをしていなかった。目を凝らせば、タンクトップの布地がちょこんと押し上げられている。下はジーンズを履いていた。ぴったりとしたそれは美幸の脚のラインにそって美しい線を描いている。杏子からは見えないが、ジーンズ特有のヒップラインは極上モノであった。
「あの、大丈夫ですか・・・?」
見えないかと心配する杏子に美幸が片目をつぶりながら手を振る。
「もー、全っ然ッ。アタシのささやかな胸ぢゃ駄目ね~。杏子先生の爆乳には敵いませんわ。はっはっはっ。」
全然ささやかでない胸をそらして笑う美幸。公称八十七センチEカップが上下する。
「それに、杏子先生の胸を見たら誰もアタシのなんて見向きもしてくれないのよ。悲しいわぁ。」
ヨヨヨ、と瞼に指を添える。誰がどうみても泣き真似だ。
「そ、それは・・・私のなんてただ大きいだけですし・・・」
「でね。」
フォローを入れる間もなく美幸が立ち直る。最初から落ち込んでなどないのだから早いのは当たり前なのだが。
「突然だけど、この質問に答えて欲しいわけですよ。」
美幸が杏子の鼻先にピンク色の便箋を突きつける。
「はぁ・・・」
受け取った紙面に眼と落とすと「みゆきセンセイへ」と丸っこい文字が並んでいた。語尾には、大小のハートマークが踊っている。
「あー、最後だけ読んで。途中は個人情報だから。」
全文を渡して、秘密も何もないものだが杏子は素直に最後の方に眼と飛ばした。
PS.ひなむらセンセイはすっごく胸が大きいですけどどうしたら、そんなにおっきくなれるのか、聞いてみてください。毎日揉まれてるのかな~。
バスケットボールが二つ並んだような胸のイラストを添えて、杏子の胸を確認した女子生徒の大半が持つ疑問が書かれている。
「で、どうなの?やっぱり毎晩モミモミされてる?」
ニコニコしながら美幸が訊く。
「なっ何期待してるんですかっ」
「だって、アタシも知りたいもの。バストアップの秘訣。」
「そんなのありません。」
「ホントに?」
「ありません。」
「彼氏に毎晩揉まれてる?」
「そんな人いません。」
「じゃあ、今フリー?」
ああ言えばこう言う美幸に杏子は多少の怒りを覚えた。
「なんでそんなにシツコイんですか?」
口をへの字に曲げる杏子に美幸が静かな声で言った。真面目な響きがある。
「結構真剣なのよ。こーゆーの。」
「・・・・」
「子供は子供なりに考えるの。さッ解ったら、とっとと教えなさぁ~い。」
一瞬だけ見せた真面目顔はどこへやら、ニンマリしながら迫る美幸にがっくりと肩を落とす杏子。降参の合図だった。
「そうそう、A棟の3-Aに転校生が入ったんですって。」
杏子からそれなりの解答を聞き出すと、タンクトップを脱ぎながら美幸が言った。
次の授業まで時間があまりない。
「三年生の転校生は珍しいですね。」
「うん。で、すごく綺麗な子だって。」
「女子ですか?」
「男子。」
「男の子でキレイですか?」
「まぁ、アタシも見たわけじゃないから、そう言う話。」
つんっと上を向いた見事な乳房が隠れた。タンクトップの胸元を引っ張り位置を合わせる。
「来週にはB棟に女子が入るみたい。転校生ラッシュね~」
B棟は杏子や美幸の担当でする校舎だ。
予鈴がなった。
「じゃぁ、お先に失礼します。沢木先生。」
ロッカーをガサガサやっている美幸に挨拶し更衣室を出てゆこうとする杏子に、ガサガサさせながら美幸が声をかけた。
「そうそう、篠原に気を付けたほうがいいわよ。杏子先生を見る目が普通じゃないもの。誘われても、受けちゃ駄目よ」
「篠原先生ですか?」
杏子の脳裏に蝦蟇のような生物教師の顔が浮かんだ。美幸に言われなくてもお誘いは受けたくない相手だ。
「寂しかったら、アタシが相手したげるからネッ」
相変わらず最後に外してくる美幸に杏子は曖昧な返事しか出来なかった。

抜ける官能小説
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