「拭けた?」
一人の婦人は紀子美に尋ねた。
紀子美は泣きながら婦人に頷き、ティッシュを手の中で小さく折り畳んで行った。
「捨ててあげる。」
婦人は紀子美に手を差し出した。紀子美は会釈しながら「すみません……」と彼女にティッシュを手渡した。
ティッシュを受け取った婦人は、先ほど置いたパンティーの下へと、そっとティッシュを持って行き、隠した。
紀子美はもう一人の婦人に手を添えられながら、また立ち上がって行った。
「どうも、すみっ、ません、ヒック……。」
紀子美は泣きじゃくりながら、手を貸してくれた婦人に頭を下げた。
「ああ、オシッコ染みちゃったわねえ……。」
婦人は紀子美のスカートを見て言った。
「ドアの方、向いていなさいよ、ね?」
ティッシュを隠して来た婦人は、紀子美にドアを指差して言った。
しかし紀子美は、「ええ、でも……」と言って、男性たちの方を向き直ってしまうのだった……。
「おっと、白石さん、こちらを向きました……!」
テレビ画面には、この時初めてスカートのシミが映し出された。
「こ、こんな、と、とこ、ろ、で、ヒックヒッ……」
紀子美は何と、男性たちに謝り始めたのだった。
「す、すみ、ヒック、ヒッ、す、すみま、ヒッ、すみま、せん、で、ヒッ、し、ヒッ……た、ヒック、ヒイイッ……。」
スカートの前でしおらしく両手を合わせ、紀子美は何度も泣きじゃくりつつ男性たちに詫びを言った。その姿は、何ともいじらしいものだった。
「白石さん、男性乗客に向かって何かを言っています、そして、ああ、今度は深々と頭を下げました……。」
画面の紀子美はスカートの前に両手を合わせたまま、男性たちに頭を下げて行った。そして彼女は、片手を額に持って行くなり、そのまま号泣し始めてしまった。
「ああっと、白石さん、泣き崩れて行きます……!
「女性たちが手を貸して……、白石さんを向こう側へと向かせました……。
「恥ずかしかったのでしょう、白石紀子美さん……。
「ああ!また、しゃがみ込んでしまいました……!」
紀子美はドアの方へと向いてしゃがみ込み、両手で顔を覆って泣き出した。
婦人連れはなす術もなく立ち尽くして見ている。
男性たちも同様だった……。
「ああ恥ずかしい、白石紀子美さん……。
「泣いています……。
「恥ずかしい……。
「恥ずかしいでしょう。23歳……。
「うら若き深窓の御令嬢です……。
「できれば見ないであげたかった……。
「あの恥ずかしい、白石さんの姿……。
「お手洗いを我慢し、オモラシするところから、その股間を拭くはしたない姿まで、全て、全国の人前に晒してしまいました……。
「ああ、恥ずかしい、白石紀子美さん……。
「床には排泄した尿が水たまりとなって広がっております……。
「凄い量……。
「もの凄い量です……。
「見られてしまいました……。
「見られてはいけなかった……、決して誰にも見せてはならなかった恥ずかしい姿を、白石さんは一部始終、人前に晒してしまいました……。
「ああ、恥ずかしい……!
「恥ずかし過ぎるお嬢様……!
「今日の日の記憶は、人々の頭から消える日が来るのでしょうか……。
「恥ずかしい……。
「実に恥ずかしい一日となってしまいました……!」
レポーターは延々と喋り続け、紀子美の泣く姿はいつまでもブラウン管の中へと映し出されていた。
紀子美の連呼される名前は、こうしている間にも人々の頭へと深く深く刻み込まれて行くのであった……。
紀子美の失禁からさらに1時間あまりが経過した。
時刻は3時15分。
エレベーターの乗客たちは、紀子美を除いて皆しゃがみ込んでいた。
婦人連れの二人は、ハンカチで鼻を覆っていた。それはエレベーターに充満した強烈な尿臭から、自分たちの鼻を少しでも守ろうとせんがためであった。
紀子美はその濃厚な尿臭の中、スカートのシミを隠してドアの方を向いて立ち、シクシクと泣きじゃくっていた。
床には尿の水たまり……。
紀子美が排泄した小便の海である……。
紀子美は今まで1時間以上もの間、ずっとエレベーター内の男性たちに、その尿を見られてしまっていた。
歩道橋の上からはテレビカメラが見据えている……。
紀子美は、自分が体内から排泄した尿を見られ、写され、そしてその悪臭を男性たちに嗅がれ続けるという、この強烈な耐え難い羞恥に、ずっと責め続けられているのであった。
何か失禁した時にも増して、紀子美の胸は激しく羞恥に締め付けられているのだった……。
それに加えて彼女は今、ドレスのスカートの下に何も着けていない……。
紀子美は、その自分のはしたない格好を思うにつけ、さらに気絶しそうな恥ずかしさを覚えるのであった……。
丸出しの股間がスースーとする。
裾をパニエで広げられたスカートが、何とも心許なく感じられた……。
--ああ、私、「マゾ」だったら良かったのに……。
紀子美はお嬢様とは言え、高校大学時代には周囲の人間から色々なことを聞かされる機会があった。だから世の中にマゾという人種がいることくらいは知っていたのである。
紀子美は今、自分がそれだったならどんなに良かったかと、心底思っていた。
〃マゾっ気のあるひとはねえ、人前でオモラシしたりした時に感じちゃうんだってよお……?〃
あの時、クラスメイトは確かそう言っていた……。
--人前でオモラシして快感を覚えるだなんて、一体どういう神経だろう。
--こんな恥ずかしいことが気持ちいい筈ないではないか……。
紀子美にはマゾの気持ちが全く分からなかった。
--今日から私は、どうやって生きて行けばいいのだろう……。
--もう街に出ることなどできない……。
--もう私はお嫁にも行けない……。
--もう恥ずかしくて、私、とても生きてなんて行かれない……!
紀子美はひたすら羞恥に苦しみ、そしてその真っ赤な頬に大粒の涙を流して泣いていた……。

抜ける官能小説
inserted by FC2 system