午後4時43分。
ようやくインターホンから、修理完了の連絡が入った。
「皆様、大変御迷惑をおかけしました。修理が完了しましたので、扉が開く階でお降り下さい……。」
乗客たちは、もはや歓びの声などあげることなく、けだるそうに愚痴を言いながら、ゆっくりと立ち上がって行った。
「ああ、やっと出られるかー……!」
「待ちくたびれたよ、もう……!」
婦人たちは立ち上がると、床に置いてあった紀子美のハンドバッグを手に取ってやり、泣きじゃくる紀子美に近寄って行った。
「やっと降りられるわね……?」
紀子美は彼女らにバッグを渡されると、何も言わぬまま、うつむいて号泣し始めた。
一人の婦人は彼女をそっと抱き寄せてやり、そして優しく慰めた……。
エレベーター故障から4時間以上……。
あまりにも遅すぎる解放であった……。
「ほら下がって……!」
「下がって、そこ、下がりなさい……!」
ロビー階のエレベーター前には、押し寄せた報道陣を整理する警備員の怒号が響き渡っていた。
レポーターたちは口々に何かマイクに喋っており、辺りには煌々とライトが灯されていた。
テレビ画面には、今、エレベーターのドア横に付いている階数表示灯が映し出されていた。
それはまさしく今、ロビー階を表すLの字に電気が点灯するところであった……。
チーン、と音がして、エレベーターが到着した。
目の前のドアは音もなく開いて、中に乗客たちの姿が現れた……。
ストロボが一斉に焚かれ、報道陣が押し寄せて行った。
押すな押すなの怒号がひどくなる。
エレベーターの乗客らは、次々と警備員にガードされながら報道陣の前に歩み出て来た。
「ほら、ちょっと!前どけよ!」
「こら、見えねーじゃねえかよ!」
「おい、こら!どけよ!」
そうしているうちに、彼らの前には、ついに紀子美の姿が現れた……。
「あ!白石さん!」
「白石さん!一言お願いします!」
「白石さん!オシッコ、辛かったですねえ!」
「オモラシして、恥ずかしかったですか?白石さん!」
「大勢の人前でオモラシしてしまったわけですが……!」
「テレビに中継されてたのは御存知でしたか?」
「紀子美さん!一言!」
「全国に流されちゃったんですよ……?」
「恥ずかしいですか?白石さん!」
「お嫁に行けないって思いますか……?」
レポーターたちは我先にと、紀子美に声をかけていた。それはインタビューと言うよりも、イジメと呼ぶべき類のものだった。
紀子美は左右を警備員に守られながら、報道陣の間を揉みくちゃにされて歩いていた。
彼女は両手に、汚れた下着類とバッグとを持ち、それをスカートの前側に当てていた。
そのスカートの前側には、今やすっかり乾燥した黄色いオモラシのシミが、大きく、恥ずかしく、鮮明に広がってしまっているのだった……。
「おい、シミ写せ!シミ……!」
「ドレスのシミ写せ……!」
テレビカメラは指示を受け、紀子美のスカートを容赦なく大映しにして行った。
ブラウン管の前には、相変わらず大勢の視聴者が釘付けとなっていた。
ヒラヒラと2段になって大きく広がる、紀子美の愛らしいスカート。
その生地に広がる恥ずかしいシミは、紀子美の真っ白な手に握られた下着類やバッグと共に、至近距離からライトを浴びせられ、クッキリと全国のブラウン管へと映し出されてしまった……。
紀子美は顔を真っ赤に染めてうつむき、両頬を涙で濡らしながら、激しく泣きじゃくって歩いていた。
彼女が歩く、その周囲には、鼻にムッと来る小便の匂いが、プンプンと漂い出して来ているのだった……。
翌日、月曜日の朝。
駅のキオスクでは、スポーツ紙が飛ぶように売れた。
その日に限っては、普段スポーツ紙を読まぬようなOLや老婦人までもが、それらの新聞を買い求めて行くのだった。
この日、それらの紙面には、色とりどりのショッキングな大見出しと共に、紀子美の写真と詳細な記事とが大々的に載せられていたのである……。

抜ける官能小説
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