時計は午後2時を指した。
エレベーターは、その後少しも動いていなかった。
全国のテレビには今や、ほとんどのブラウン管に、皆同じエレベーターの映像が映し出されていた。
今や他局の多くも、エレベーター故障事故の中継を開始していたのである。
紀子美の名前や年齢などは、もうテレビ各局の取材によって調べられ、視聴者に明かされてしまっていた。彼女が高名な白石博士の孫娘であることも、紹介されてしまっていた。また、いくつかの局では、彼女がハイヤーを降り、MSビルのエレベーターに乗るまでの経緯をも、目撃者の証言から詳しく解説したところだった。 
画面では紀子美が、床に膝を突いたまま左手で股間を握りしめ、右手では手すりにつかまりながら、せわしなく腰を上下に動かしていた。その腰の動きは今やもの凄く大きな動作となっており、まるで母親の手を握った小さな子供が「もう洩れちゃうよう……!」と大騒ぎして母親を困らせているような、そんなあられもない姿であった。
気品溢れる紀子美の顔とは、あまりにもギャップの大きい、はしたない姿……。
「もう、こんなのテレビに映されちゃって……、あのお嬢さん、お嫁に行けなくなっちゃったんじゃないの……?」
視聴者の中には、そう心配する声もあった……。
「んああ……、で、ちゃう……。」
美しく、か細い声ながら、紀子美は信じられない言葉を吐いていた。
乗客の男性たちは、その紀子美の姿をじっと窓際から見下ろしていた。
紀子美の両脇には婦人連れがしゃがみ込み、彼女の身体に手を添えてやっていた。
婦人らはしきりに紀子美へ声をかけ、彼女を励ましてやっていた。しかし彼女らの心中には、もうこれ以上紀子美に我慢を強いることへの戸惑いが生じ始めていた。
「もう、駄目かしらねえ……。」
一人の婦人は連れの婦人に向かって、そう小声で言った。
連れの婦人は心配そうな顔を彼女に向け、「ええ……、させちゃった方がいいのかしら……。」と、低く抑えた声で答えた。
「ん、はああ、んんんん……!」
紀子美の声は一層切迫の度を増していた。
紀子美は左手で股間を握りしめたまま、のたうつように身をくねらせ、そして大きく腰を上げ下げさせていた……。
「ねえ、エレベーターの上か何かから、救助してもらえないのかしら……。」
一人の婦人は、相方の婦人にそう尋ねてみた。
「そうねえ……。」
相方の婦人は、顔を曇らせたまま、考え込むように言った。
「私、ちょっと聞いてみるわね……?」
先の婦人はそう言って立ち上がり、インターホンへと向かって行った。
「は、ああん……で、ちゃうう……んあああ……!」
紀子美は澄んだ上品な声で苦悶しながら切なげな顔を上げ、腰を大きくくねらせた。
「ほら頑張って……!まだ、しちゃあ駄目よ……!」
横に残った婦人が励ました。
「あ、もしもし……?」
婦人はつながったインターホンに向かって話しかけた。
「あの、お嬢さん、かなり辛そうなんですけどねえ……、上かどこかから救助してもらうのって、できないんですか……?」
スピーカーからは男性の声で返事があった。
いわく、少々恐いと思うが(と彼は前置きしたのだったが)、10階の扉からロープを下ろし、紀子美を助け上げてやることはできると言う。
「そうですか!じゃあ、やって下さい、それ……!」
婦人はインターホンに向かって叫んだ。
と、その時である。
「んああ……、もう、あっ……、で、出ちゃううう……!」
紀子美が高く、切迫した声をあげた。
彼女の身体は、激しく異常に震え始めていた……。
「あなた、やっぱりもう駄目よ……!」
紀子美のそばに残った婦人は、インターホンの婦人に向かってそう叫んだ。
「あらら!大変……!」
インターホンで話していた婦人は、「ちょっとスミマセン!」と言ってインターホンを離れ、慌てて紀子美のそばへと駆け寄って行った。
「んああああ……!で、ちゃうううう……!」
「もう駄目よ、やっぱり。させちゃいましょう?お嬢さん……。」
「そうね……。仕方ないわね……。」
婦人たちは急きょ話をまとめると、紀子美の身体に両手を添え、彼女に「さあ、立ちましょう」と言って促した。
紀子美は婦人たちの意図を知ってか知らぬか、彼女らに引かれるまま、ゆっくりと立ち上がり始めた……。
「おおっと、白石さん、何やら2人の女性たちに手を添えられ、立ち上がって行きます……!」
テレビではレポーターが実況を行っていた。
視聴者たちは、じっと画面を見つめていた。
画面の紀子美は中腰で立つと婦人連れに促され、カメラに背を向けてドアの方へと歩き始めた。

抜ける官能小説
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